2013.04.24更新

 このように、離婚や交通事故のような類型的なケースの慰謝料は、これまでに積み重ねられてきた裁判事例によって、おおよその金額の基準ができている。
 つまり、裁判所が苦痛の値段を付けている。欧米において認められている慰謝料額は非常に低い。精神的苦痛の値段の低さは、その国の人権尊重の度合いの低さを表しているような気がする。人間の値段が低いということでもある。失礼ながら、中国の慰謝料基準は日本に比べても非常に低い。このことは、以前に中国で修学旅行中の高校生たちが列車事故で死亡した際に問題になった。もっとも、これには貨幣価値の違いがもちろん影響している。
 
 ところで、世の中、苦痛に満ちている。
 離婚や交通事故のように苦痛の値段についての類型的な基準があればまだ良いが、そうでない問題もたくさんある。
 
 上司からセクハラ行為を受けた場合の慰謝料は幾ら? 電車の中で痴漢行為をされた場合の慰謝料は幾ら?
 週刊誌にでっち上げの記事を書かれて名誉を毀損された場合の慰謝料は幾ら? プライバシー侵害の慰謝料は幾ら?
 騒音被害の慰謝料は幾ら?

 これらを考えだすと、今夜も眠れない。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.22更新

 今回は交通事故で死亡した場合の慰謝料は幾らか?を検討します。
 
 日弁連交通事故相談センターの基準によれば、被害者が一家の支柱として家族の生計を支えていた場合でも死亡慰謝料は2600万円から3000万円程度とされています。
 
 命が奪われた苦痛の値段としてはいかにも安いような気もしますが、これも裁判所が認めてきた金額を参考にして作った基準で、裁判をしてもこの程度の金額だという基準です。ちなみ植物人間になったような後遺症1級の慰謝料の基準金額も死亡慰謝料と同額です。
 確かに、死亡するのと植物人間になるのとどちらの精神的苦痛が大きいかは微妙な問題ではありますが。
                                                                   (以下、次回へ)

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.18更新

 我々普通の庶民が離婚するとなると、慰謝料はいくらか?
 
 離婚裁判で認められる慰謝料は一般的に言って500万円程度が上限である。
 慰謝料は離婚原因を作ったことに対するペナルティーであるから、その原因の大きさや内容で慰謝料額は大きく異なるが、ひどい浮気者で暴力的な夫に対する離婚慰謝料請求のようなケースでも、500万円を超える慰謝料の支払を命ずる判決は少ない。
 離婚の苦しみ、悲しみも安く見られたものであるが、裁判所が幾らの慰謝料を認めるかという基準が協議離婚で慰謝料額を話し合う際の一応の目安になるのは当然である。裁判をすれば取れるか取れないか、というのが話し合いで妥協するか否なかの判断基準とならざるをえない。
 
 次回は、交通事故で死亡した場合の慰謝料について検討します。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.17更新

 慰謝料も含めて、賠償は金銭の支払をもって為される。時価50万円の置物が壊されれば、その損害額は50万円である。
 しかし、精神的苦痛には元々値段が付いていないから、慰謝料を請求するにあたっては、精神的苦痛に値段を付けるという作業が必要になる。しかし、どうやって値段のないものに値段を付けるのか。。。精神的苦痛の強さは個人差もあるし、目には見えないのに。。。

 離婚の例で考えてみよう。
 芸能人が離婚する際に慰謝料1億円を支払った、などと耳にすることがある。話し合いで決める場合には、お互いが納得さえすれば、慰謝料は50万円でも1億円でも構わないが、それにしも1億円などという高額の慰謝料は例外中の例外である。

 では、我々普通の庶民が離婚するとなると、慰謝料は幾らか?!
                                                                        (次回へ続く)

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.16更新

 「慰謝料」と聞いて何を思い浮かべますか?
 私の予想だと、離婚の慰謝料を思い浮かべる人が80%、交通事故の慰謝料を思い浮かべる人が20%といったところか。。。
 
 慰謝料とは、言うまでもなく精神的損害に対する損害賠償金のことである。精神的損害とは、精神的苦痛である。つまり、痛い、苦しい、悔しい、悲しい、不安だ、不快だといいた精神状態である。
 債務不履行や不法行為によって相手に損害が生じた場合には、債務不履行者や不法行為者は相手の損害を賠償する義務を負う。その損害は財産的な損害だけでなく、精神的な損害も含まれる。
 
 つまり、相手の契約違反や違法な行為によって、いわれのない精神的苦痛を与えられた場合には、その苦痛に対する賠償を求めることができる。
 
 但し、その精神的苦痛と原因との間に相当因果関係が認められる場合、その原因があれば誰しも精神的苦痛を覚えるであろう場合に限られる。例えば、交通事故で負傷すれば慰謝料請求が認められるが、車が破損しただけでは慰謝料請求は認められにくい。

                                                                                                                                       (次回へ続く・・・)

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.15更新

 労働審判では、審理の途中で調停の成立の見込みがあれば、労働審判委員会は調停を試みることとされている。
 調停による解決に至らない場合、つまり、解決案について当事者間の合意が成立しない場合には、審理に基づいて審判が言い渡されることになる。通常の裁判は、請求権の有無を判断するだけである。例えば、未払賃金100万円の支払いを請求する裁判では、100万円の貸金請求権が認められれば100万円の支払を命ずる判決が言い渡されるが、毎月10万円づつ10回の分割で支払え、という判決はない。
 しかし、労働審判では「個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる」とされているから、場合によっては分割払いを命ずることもできる。例えば、解雇を巡る紛争の場合、解雇無効の確認を求める裁判では、解雇の無効が認められれば、「解雇が無効であることを確認する」と判決される。しかし、裁判に勝っても、実際に職場復帰することはなかなか難しい場合もある。
 このような場合、労働審判では、解雇無効を確認する代わりに、使用者に金銭の支払を命じて金銭解決させることも可能である。その紛争の実情にあった柔軟な解決を命ずることができるのである。
 このように見てくると、労働審判は個別労働関係民事紛争の解決システムとしてはかなりいい線をいっている、と言えそうだが、労働審判の結論に不服がある当事者は異議を申し立てることができ、異議の申立てがあると労働審判は効力を失い、通常の裁判に移行することになっている。 この場合、迅速な解決は実現されない。
 しかし、労働審判で敗れた側は、裁判に持ち込んでも敗色濃厚と考え、審判に従うのではないかとも思われる。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.12更新

 労働審判は、当事者が裁判所に申し立てる。
 労働審判を審理するのは、裁判官1名と労働関係について専門的な知識経験を有する者2名で組織される労働審判委員会である。
 審理回数は原則的に3回以内で、1回目の期日は申立後40日以内に指定され、2回目、3回目は1カ月おきに指定されるので、申立後3カ月から4カ月で審判が出されることになる。
 通常の裁判に比べれば迅速に結論が出されることは間違いない。また、通常の民事裁判では、主張内容はすべて書面に書いて提出することになっているが、労働審判では、書面の提出は労働審判を申し立てる際の申立書とこれに対して相手方が提出する答弁書だけで、あとは口頭で行なうものとされている。書面で主張を出すやり方だと、その次の期日までに書面で反論する、ということになり、審理が長期化する。
 労働審判では、迅速な審理をするために、審判期日に、その場で口頭で議論する方法をとっているのである。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.11更新

 近年、個別労働関係民事紛争が増加している。個別労働関係民事紛争というと難しそうだが、要は解雇、賃金未払、労災事故に関する損害賠償請求等、労働者と使用者の間に生じた個々のトラブルのことである。
 増加の原因としては、バブル経済の崩壊で各企業がリストラを進めたことがあげられている。リストラによる大量解雇、労働条件の引き下げ、等々、トラブルの原因になりそうなことを数えあげればキリがない。セクハラやパワハラ等の新しい形のトラブルも増加している。
 このような個別労働関係民事紛争の解決制度としては、裁判、民事調停、労働局(労働基準局)による指導、各弁護士会によるあっせん・仲裁制度等が従来からある。しかし、裁判は時間がかかり過ぎるし柔軟性に欠ける。労働局による指導は個別紛争の解決に直接つながらないことも多い。調停、あっせん、仲裁制度は当事者が合意に至らなければ解決を見ることができず、それまでの努力が無駄になるというケースが多い。このように、従来の解決制度だけでは個別労働関係民事紛争の増加に対して十分な対応ができないのが実情であった。
  そこで、平成13年に「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が制定され、総合労働相談所を設置して個別労働関係民事紛争の相談を受け付け、都道府県労働局が、助言・指導とあっせんを行なう制度が作られた。以来、これらの制度も利用されているが、労働局の助言・指導やあっせんも、当事者の合意を基礎とする解決手段であるため、最終的に合意が成立しなければ解決できないという弱点がある。賃金請求や解雇無効確認などの個別労働関係民事紛争には当事者の生活がかかっている。裁判のように最終解決手段となって、しかも裁判より迅速で柔軟な紛争解決制度が必要である。そのような紛争解決制度として考案され、創設されたのが労働審判制度である。
 労働審判法は、平成16年に成立し、平成18年から施行されている。
 はたして、労働審判制度は個別労働関係紛争の理想的な解決手段となっているのか。
(以下、次回) 

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.01更新

平成24年に改正された労働契約法の次のルールが本日(平成25年4月1日)から施行される。

1 有期労働契約が反復して更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申し込みにより無期j労働契約に転換される。
                                                                      (労働契約法18条)
   ただし、5年の通算契約期間の計算は、平成2年4月1日以後に開始する有期労働契約が対象。
   有期労働契約と次の有期労働契約の間の空白期間労が6ヶ月以上あるときは、空白期間以前の契約期間は通算されない。

2 有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより不合理に労働条件を相違させることは禁止される。
                                                                      (労働契約法20条)
   ただし、労働条件の相違が不合理と認められるか否かは、次の点を考慮して個々の労働条件ごとに判断する。
  ① 職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)
  ② 当該業務の内容及び配置の変更の範囲
  ③ その他の事情
 
 上記の改正以外に、平成24年の労働契約法改正では、最高裁判所の判例が認めた「雇止め法理」を明文化する改正がなされている(労働契約法19条)。

投稿者: 柏木幹正法律事務所