近年、個別労働関係民事紛争が増加している。個別労働関係民事紛争というと難しそうだが、要は解雇、賃金未払、労災事故に関する損害賠償請求等、労働者と使用者の間に生じた個々のトラブルのことである。
増加の原因としては、バブル経済の崩壊で各企業がリストラを進めたことがあげられている。リストラによる大量解雇、労働条件の引き下げ、等々、トラブルの原因になりそうなことを数えあげればキリがない。セクハラやパワハラ等の新しい形のトラブルも増加している。
このような個別労働関係民事紛争の解決制度としては、裁判、民事調停、労働局(労働基準局)による指導、各弁護士会によるあっせん・仲裁制度等が従来からある。しかし、裁判は時間がかかり過ぎるし柔軟性に欠ける。労働局による指導は個別紛争の解決に直接つながらないことも多い。調停、あっせん、仲裁制度は当事者が合意に至らなければ解決を見ることができず、それまでの努力が無駄になるというケースが多い。このように、従来の解決制度だけでは個別労働関係民事紛争の増加に対して十分な対応ができないのが実情であった。
そこで、平成13年に「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が制定され、総合労働相談所を設置して個別労働関係民事紛争の相談を受け付け、都道府県労働局が、助言・指導とあっせんを行なう制度が作られた。以来、これらの制度も利用されているが、労働局の助言・指導やあっせんも、当事者の合意を基礎とする解決手段であるため、最終的に合意が成立しなければ解決できないという弱点がある。賃金請求や解雇無効確認などの個別労働関係民事紛争には当事者の生活がかかっている。裁判のように最終解決手段となって、しかも裁判より迅速で柔軟な紛争解決制度が必要である。そのような紛争解決制度として考案され、創設されたのが労働審判制度である。
労働審判法は、平成16年に成立し、平成18年から施行されている。
はたして、労働審判制度は個別労働関係紛争の理想的な解決手段となっているのか。
(以下、次回)