先日、私が長期間にわたって代理人を担当していた裁判で和解が成立した。少し変わったケースなのでご紹介する。
Aさんは、複数の債権者に多額の借金をしたまま死亡。一方で、Aさんは多額の生命保険に加入していた。「私が死んだら生命保険金で借金を返すから」というのがAさんの口癖。債権者らもこれを信じてお金を貸していた。生命保険金の受取人は「法定相続人」とされていたので、本来の法定相続人であるAさんの息子Bさんがこの生命保険金を受け取ってAさんの借金を返せば何も問題はなかった。しかし、Bさんは、Aさんの借金を引き継ぐことを嫌って相続放棄したため、Aさんの兄弟であるCさんがAさんの相続人となった(先順位の法定相続人が相続放棄すると、次の順位の法定相続人が相続人となる)。もちろん、CさんはAさんの借金を相続するが、生命保険金を受け取って債権者に返済すればよいと思っていた。
ここで、生命保険金を受け取ることができる「法定相続人」とは誰かが問題となる。①Aさんが死亡した時点の法定相続人であるBさん あるいは ②Bさんが相続放棄した結果最終的に相続人となったCさん のどちらなのか、という問題である。この点については最高裁判所の判例がある(昭和40年2月2日の最高裁判決と昭和48年6月26日の最高裁判決)。最高裁判決の結論だけ言えば、「特段の事情がない限り」①ということになる。つまり、Aさんの息子であるBさんは、相続放棄によってAさんの借金を引き継がなくてよいうえに、Aさんが加入していた生命保険金を受け取ることができる。一方Cさんは、Aさんの借金を引き継いだにもかかわらず、生命保険金は受け取れないので、債権者に返済することができない。しかし、この結論は何とも不公平な感じがする。
そこで、私はCさんの訴訟代理人を引き受けて、生命保険金を受け取ったBさんに対し、生命保険金のうちAさんの借金返済に必要な金額はCさんに支払えという裁判を起こした。生前Aさんは生命保険金で借金を返すと言っていたので、Aさんは借金を引き継ぐ最終的な相続人が生命保険金を受け取り、そのお金で借金の返済をしてほしかったはずであり、このような事情は最高裁判決の例外、つまり「特段の事情」が認められる場合にあたるという主張である。
長期間の審理の結果、裁判所も、Aさんの意思を合理的に解釈すれば借金の返済に充てるために生命保険金に加入していたものと認められるとの心証を開示し、BさんからCさんにそれなりの金額を支払うという内容で和解が成立したのである。